遺伝子組換農作物

谷和原村「遺伝子組換え大豆」への対応の経過と
常総生協の考え(2003年)

谷和原「遺伝子組換え大豆栽培」の経緯

1996年アメリカで生命史上初めてヒト(企業)がDNAを人為的に操作した除草剤耐性や病虫害毒素産成能を持った作物が野に放たれて8年。食糧を外国に依存する日本はその実験台にされてきました。

そしてモンサント社はいよいよ日本での栽培に触手を動かしはじめ、民間団体を使って数年前から一般圃場での栽培試験をはじめていました。その中のひとつの圃場がなんと私たちの地元・谷和原村だったことから02年度より監視をはじめ、組合員ニュースでもお知らせしていました。

02年まではモンサント社が騒ぎをおそれて開花前に刈り取る条件での作付けで様子を見ていましたが、03年も茨城県には「今年も開花前に刈り取る」と農水省(STAFF)が報告していたにもかかわらず、なんと開花させて枝豆まで取らせるという動きに出ました。開花-花粉の飛散・虫媒によって周辺の大豆へ交雑がいちどはじまれば、数世代のうちに茨城の大豆、全国の大豆、そして近縁野生種への汚染は拡大するのは必至で、日本の作物が遺伝子汚染の危機に直面しました。私たちの大豆も危険でした。

モンサント社や農水省の外郭団体(STAFF)は、「大豆をもうほとんど作っていない日本で遺伝子組換え大豆を栽培しても特許でも農薬でも儲からないので日本での栽培は考えてない。市場としてのビジネスターゲットは中国だ」(02年谷和原圃場で)と言いながら、日本で開花まで強行するのは「日本の大豆を汚染してしまえば、遺伝子組換えに神経質な日本の消費者・豆腐納豆メーカーは選択の余地なく組換え大豆を買わざるを得なくなる」との意図が取り沙汰されていました。

不穏な動きを感じて、私たちは6月理事会にて監視体制と地域のネットワーク結成呼びかけを決め、JAやさと・生協の地元生産者・茨城有機農業研究会・つくば環境と人権のための市民会議をはじめとする生産者団体・地域団体・市民に呼びかけて6月に『遺伝子組換え作物いらない茨城ネットワーク』を結成し、監視とともに栽培者(宮崎県のバイオ作物懇話会)、土地を貸した地主、農水省へ即時栽培中止を求めてきました。

しかし当事者は「県に開花前に刈り取るとは言っていない。今年は開花させて枝豆まで取る」との回答で、また半年前に「一般圃場で栽培する場合は交雑防止措置を取ること」との通達を出していた農水省もなんらの指導もしないまま現場の圃場では開花がはじまり周辺交雑の危険が高まりました。

ぎりぎりまで地主との交渉をすすめて花粉防止措置をとることの了解を得て、最終的にネットワークのメンバーの手で鋤き込みをいたしました。

この交雑汚染の危機に対する行動は全国から、とりわけ農業者からの支持と支援を頂きました。また、地域の多様な人たちとの連携と団結も強いものになりました。その後の農水省との交渉の中で、他(滋賀・岐阜)でも秘密裏に栽培されていたことが発覚し、地域の行政や市民の力で処分されました。

「日本に遺伝子組換え作物はいらない」「再びこうした混乱を招くことなく、日本の在来作物をひとにぎりの企業による遺伝子組換え汚染から守ろう」と、常総生協組合員から署名運動が開始され、JAやさと、茨城ネットワークにも拡がり、国に対しては総理大臣宛要請、県に対しては議会請願として取り組まれました。地元の県議会議員も一生懸命動いてくれました。

県議会宛請願署名は12月定例会で採択されるとともに、それを受けて茨城県は「遺伝子組換え作物に対する指導方針」を日本ではじめて表明し、農水省、モンサント社に提出するとともに、県内各市町村ならびに農協に指導事項を通達するという成果となりました。各市町村でも請願採択が広がっています。

他方、谷和原の組換え大豆が鋤き込まれた土壌を大学研究室に持ち込んで土壌微生物へのDNA転移を検査した結果は、1ヶ月後の土壌で組換え大豆体由来の除草剤耐性遺伝子が、土壌微生物に転移していることが判明しました。トランスポゾン(動き回る遺伝子)や植物ウイルスを伝搬担体として土壌微生物までが除草剤耐性遺伝子に汚染されてゆくことも心配されています。食物(ヒトや家畜)経由での腸内細菌への組換えDNA汚染のみならず、土壌微生物への影響も注意しなければなりません。

しかし、国はあくまで「遺伝子組換え技術は食糧問題解決のカギ」として何百億円もの税金を使ってバイオテクノロジーの研究をすすめています。
すでに今年に入っても地元のつくばの各研究機関では主食のコメの遺伝子組換え体、ジャガイモの組換え体を開放圃場で行う申請を農水省・環境省に提出し、周辺住民の理解を得るための説明会を積極的に展開しています。

ひきつづき、監視が必要です。

アメリカでは遺伝子組換え小麦の栽培が申請され、いよいよバイオ企業による世界の穀物の企業支配に動きつつあります。

なお、国立環境研(つくば市)では、昨年の大豆近縁野生種ツルマメに確実に遺伝子交雑が起きることの実証試験を踏まえて、今年度はその継代実験(周辺野生種へ交雑した際、何代遺伝子組換えの形質が保存され、生物多様性への影響があるかどうかの試験)が行われています。

常総生協の経緯と考え方

私たち常総生協は96年末、国が「組換え食品・作物輸入許可」した際に緊急署名を集めて単独厚生省に乗り込んで許可取消のを求めて交渉しましたが、非力を感じて帰ってきました。行政要求だけでなく、自分たちの食は自分たちで守る実践を、と。

97年ナタネ油をめぐっても組合員討議が行われ、当座の措置としては組換えのカナダ産から非組換えのオーストラリア産に切り替えるものの、産地を変えてもいづれ組換えになる。ならば油を使うことを減らす食生活運動とともに、もう一度油の自給可能性をさぐろうと菜の花プロジェクトがスタートしました。(オーストラリアも昨年GMが許可されました) また、大豆においても10数年来続けてきている「手作り味噌」の大豆生産を地場で依頼し、またJAやさとの提案で納豆への大豆生産基金の創設等、生産者と消費者が一体となって国内大豆自給を高める活動をすすめてきました。

春のアンケートで多くの組合員が指摘しているように、「遺伝子組換え不使用」という表示は本当に信頼できるとは思えません。 今回の大豆などは豆腐や納豆の「主原料」として目に見えますが、食品の現実はもっと複雑怪奇で、加工食品などはあらゆるところに遺伝子組換えが侵入・混入しているのが食の現実です。

世界から非組換え食品を集めてきて消費し、「ウチの生協は遺伝子組換えを扱っていません」などと宣伝しても、そこには輸入依存の構造の解決努力も、消費者自身の食生活のあり方への反省と行動への契機が含まれているとは思えません。

私たち常総生協組合員は、そのテーマに「自立した主体的な消費者になろう、そして協同しよう」を掲げました。

家族が口に入れるものには主体的にかかわり、考え判断し、目に見える形ある素材で手作りし、消費者自身が今の他人依存の偏った食生活のあり方を変える努力をし、生産の現実についても思いを及ぼし、生産と消費の信頼関係を築き、協同の中から「いのち」の基礎である食の基盤の自立形成を果たすこと、もって健全健康で、節度ある経済的なくらし方を取り戻すことをみんなの中期課題にしました。

口だけでなく、自ら主体的に行動し実践し協同する・・・「遺伝子組換え作物」に象徴される効率主義・カネ至上主義を監視しつづけながら、「いのちを育む」という別な原理で主体的な行動をすすめてゆきたいと思います。