初期被ばく線量評価

福島原発事故における被ばく線量評価について
放射能汚染・被ばく調査からみえてきたこと

2013年11月23日

常総生活協同組合

【1】はじめに
  1. 2011年3月12日以後数ヶ月にわたって東京電力福島第一原発より大量の核分裂生成物が大気中に放出され、海側に2/3が流れ、1/3が陸地を通過し列島の半分以上を直接汚染した。 地球上の大気を汚染し表層圏を循環している。ストロンチウムを含む汚染水は今も海洋へ垂れ流されている。

  2. (防護の失敗と被曝線量評価の放棄)日本政府は事故直後の初動の国民の放射線防護に「失敗」し、多くの国民が被曝した。 そして政府は国民の「初期被曝線量評価」作業をあいまいにし、断片的なデータを国連科学委員会(UNSCEAR)に提出して2013年5月国連科学委員会によって 日本の1歳児甲状腺等価線量評価(最高82ミリシーベルト)が発表されるという他人まかせを演じた。
    そればかりか国は、失敗と放棄を反省することなく居直り、国民に被ばくを受忍させる政策を続け、「公衆被ばく線量限度年1ミリシーベルト」を規定した現存の法律を犯して 「年20ミリシーベルト」帰還基準を作って国民を低線量被ばくの人体実験にさらす道を選択している。国による公然たる違法行為状態である。

  3. (市民による汚染調査と被ばく評価)原発事故と汚染・被ばくに直面して、日本の市民はこれまでの国による「安全神話」によって充分な防護の準備・心構えがなかったものの、 事態に直面して合理的な判断と客観的データの収集とそれにもとづく自己防衛行動をすすめている。国と国民が完全に分裂した。市民の生命・健康・財産に近い地方自治体は市民の働きかけで市民に添った立場で動きつつある。
    事実にもとづく議論と、今現在も進行し放置される被ばく状況への対処防衛の協力体制を地域で組み上げることが緊要な課題です。

【2】東電福島第一原発からの核分裂生成物の放出と被ばく線量評価データ
  1. (沈着)放出された核分裂生成物は大気中をプルーム(放射性雲)となって3/12から5月にかけて東日本から東北地方を往復し、乾性沈着・湿性沈着を重ねた。

  2. (ヨウ素とセシウムの大気輸送は違う動きを示した)大量に放出されたヨウ素の大気輸送と、セシウムの大気輸送は異なる動きをし、異なる沈着が発生した。それぞれの沈着量を国立環境研究所がシミュレーションしている(下図)。ヨウ素131沈着の地図はセシウムのそれとは異なり、南下して「いわき-茨城-千葉-東京方面」に沈着している。しかしこれは「沈着」であり、住民が吸入した大気中のヨウ素131の濃度は4地点(東海村、つくば市、千葉市、東京都世田谷)でエアーサンプラーによって吸引測定された空気中放射性核種のデータを元に考えなければならない。

    ※ヨウ素131とセシウム137の積算沈着量のちがい(3/11-23)シミュレーション・解説ともに国立環境研究所

  3. ゲルマニウム半導体検出器

    I-131はガスであるため、乾性沈着が多く、湿性沈着は少ない。そのため、沈着量は大気中濃度に強く依存する。原発周辺だけでなく、風によって放射性物質が輸送された福島県東部や茨城県などの関東地方で沈着量が多い。

    ゲルマニウム半導体検出器

    Cs-137は粒子であるため、乾性沈着が少なく、湿性沈着が多い。そのため、沈着量は大気中濃度と降水量の両方に関係する。原発周辺だけでなく、風によって放射性物質が輸送され、且つ降雨があった福島県東部、宮城県、関東北部で沈着量が多い。

  4. (プルーム中の核種構成・・ヨウ素が圧倒的)茨城・千葉では3/12~4月にかけてプルームが往来しているが、その核種構成はガス状のヨウ素が圧倒的だった。

  5. (3/21のプルームの構成)茨城・千葉において濃度の高いプルーム通過は3/15-16と3/21-23の2つのピークがあった。核種の割合は同様にヨウ素131が圧倒的だったが、3/21に限っては、セシウムのプルームが混ざり合って、セシウムが成分中の40%を占めていた。

  6. (セシウムの湿性沈着)3/21早朝、たまたま雨雲が東葛地区から茨城にかけて通過し、プルームと衝突してセシウムが湿性沈着した。この「痕跡」を調べたのが多くの市民が参加して調査した土壌沈着量調査である。これがその後の「現存被曝状況下」の長期にわたる外部被ばく線量評価の指標となる。

  7. (ヨウ素の吸入と乾性沈着)他方、放射性ヨウ素は多くはガス状で、降雨による雨滴への付着による落下・沈着は少なく、地表面を通過ないし漂い、空気中に滞留していたと考えられる。プルーム通過時、このヨウ素131を主成分とする空気を呼吸し、内部被ばく線源を体内に取り込んでいる。放射性ヨウ素による被ばく線量評価にあたっては、空気を直接吸引してフィルターで補足しているデータがあり、住民の初期吸入被ばく線量を評価する大きな手がかりである。他方、地表面や植生、建物との接触面では乾性沈着したと考えられ、放射性ヨウ素の沈着調査はプルーム通過の「痕跡」を示す。ヨウ素131は半減期8日と短いため、それを補足したデータは限られている。しかし半減期1570万年のヨウ素129は測定できるはずであり、湿性沈着の痕跡の正確な調査が必要である。

【3】市民による汚染調査の方法と初期被ばく線量評価

被ばく線量評価にあたっては、放射線がどこから発せられて被ばくするのか、その「線源」がまず特定されその線源がどこに存在しているか、いたか(土壌中なのか樹木なのか、体内なのか、いつどのくらい取り入れたか)を特定することが必要である。

放射性物質による客観的汚染レベルを何をもって評価するか、その上で人体への放射線影響の防護政策上の指標を何を使うかを定めておかないと議論が混乱する。
 従って、それが客観的「物理量」(ベクレルBq、グレイGy、cpm)なのか、物理量に換算係数を乗じた「実用量」(モニタリングポストの空気吸収線量率、サーベイメータによる周辺線量当量率、個人線量計:単位シーベルトSv)なのか、それとも防護政策上の必要から人間が作ったひとつの任意の指標「防護量」(実効線量:単位シーベルトSv)なのかを見分けながら議論する必要がある。
 日本の法律における規制体系(放射線障害の防止に関する法律、医療法、労働安全衛生法、電離放射線障害防止規則)は、放射線管理区域を規定する基準を一様に「α線を放出しない同位元素の場合」は「表面線源が4ベクレル/?」としている。これは表面線源を物理量ベクレルBqで測定したものを採用している。
 まずは法的に規定された物理量で判断されるべきである。

ICRPが作り上げている防護体系で採用されている政策的防護指標「実効線量」(シーベルトSv)は、任意の指標のひとつの「目安」でしかなく、低線量被ばくの健康影響は科学的にいまだ「わかっていない」ことに充分留意する必要がある。特に内部被ばくは過小に見積もられていると批判されている。
 「わかっていない」ことを「影響がない」とか「安全」にすり替えることは非科学的な態度である。しかし、残念ながら日本ではそれが強権的に大手を振って歩いている。

他方、政策上の「防護量」基準として定められている「公衆被曝線量年間1ミリシーベルト以下」とは、原子力基本法20条-放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律および施行規則19条で、文部科学大臣によって放射線障害防止のために「放射線を扱う施設の敷地境界では年間1ミリシーベルトを超えてはならない」と法的に規定されていることにもとづく公衆の被ばく「実効線量」限度である。

(1)セシウム土壌沈着量調査・・・長期外部被ばく線量評価
  1. (市民によるセシウム土壌沈着量調査)2012年3月~6月にかけて市民が茨城県南部~千葉北西部にかけて1kmメッシュによる全946地点の土壌を採取しセシウム土壌沈着量を測定した。

  2. (セシウム土壌沈着状実測の意味)緊急時被ばく状況後の長期にわたる被ばくの外部被ばくの原因をしめるのは土壌沈着した半減期の長いセシウムである。この沈着したある地点の放射線発生源を客観的「物理量」(ベクレル/kg)で評価する点に意味がある。

  3. (空間線量との違い)サーベイメーターによる空間線量(周辺線量当量)の測定は容易に測定が可能であるが、核種が特定できないこと、森などの周辺環境や空気の流れにも影響されること、半減期から前後の計算ができないことなどの難点がある。また物理量であるCPM(1分間に何個の放射線を補足したかの数)から空気吸収線量(単位Gy)に変換した上で、換算係数1.2を掛けて安全側に評価する「実用量」(単位Svシーベルト)で表現していることから「物理量」でもなく、またICRPが任意に決めた「防護量」としての「実効線量」(単位Svシーベルト)でもない。

  4. (土壌採取上の留意点)土壌採取の時期はすでに1年を経過しており風雨(ウェザーリング)による流動があり、局地的に高い値を示す集積地点がある。平均的な汚染状況を把握するのが初期目的であることから、1kmメッシュで区切った上で、こうした流動集積地を避けて初期状態を保存しているであろうと思われる地形の地点を選択し、近辺5ヶ所の土壌を採取して1ヶ所の土壌として採取した。全946メッシュ分の土壌を測定した。市町村別平均を出す際は、市町村全域をカバーできなかった市町村については除外し、851メッシュ地点で市町村平均を算出した(なお、流山市おおたかの森周辺での2011年10~11月調査は250mメッシュで調査しているが、その中でも大きく値が異なり、土壌沈着・汚染が極めてまばらであることを示す点には留意する必要がある)。

  5. (由来の確認)広範な市民による放射性物質の土壌沈着量調査は、事故から半年後から1年後から開始されており、半減期8日のヨウ素は検出されない。しかしセシウムにおいては半減期2年のセシウム134も補足されることから、福島第一原発から放出された生成物であることを確認できる(福島第一原発から環境放出されたセシウム134と137の放出割合が1:1と確認されていることにより、土壌調査の134/137比を検証している)。

  6. (緊急時測定と補正)土壌調査は文科省「緊急時測定マニュアル」にもとづき乾燥させることなくFW(フレッシュ・ウエイト)で密度計算している。平常時は乾燥重量である。苦肉の策として電気伝導率を測定して水分含有量を測定している。ここからのちに一般化できるDW(ドライ・ウエイト)乾燥重量換算を行うことができる。

  7. (第一次法的評価)まずは現行の法律で定められた「表面線源が4ベクレル/?」(=4万ベクレル/㎡)以上は「放射線管理区域」とするという法率にもとづいて評価されることが法治国家の原則である。市民による測定の結果(乾DW)、千葉県北西部~茨城県南部の2011年3月の沈着時点の土壌表面線源は、約67%の地点で4万ベクレル/㎡を超え、地域の殆どが法律上「放射線管理区域」であることを証明した。

  8. (法律に基づく対策)法律にもとづく対策がとられるべき対象であることは、法律が指示することであって、法律を無視して「支援?対象外」とするようなことでなない。支援の問題ではなく、法定の問題である。

  9. (線源からの被曝線量評価)この物理量による法定の評価の上に立って、次に被曝線量を評価するにあたって市民調査は土壌沈着量線源から地上1mの1mの空気カーマ(空気吸収線量率グレイGy)を計算し、「累積外部被ばく線量」の指標とした。従って単位はグレイ(Gy)である。これもICRPが防護基準(健康影響評価)に使う「実効線量」(体表面1cm下での被ばく影響)ではない。しかし、「実効線量」も物理量ではなくて、ひとつの任意の約束指標にすぎない。(空気吸収線量からICRPが言う皮膚下1cmの実効線量なる防護評価基準に換算すると、0.7~0.8を乗じる)

  10. (遮蔽に関する係数)場所・居住における換算係数は屋外8時間・屋内16時間とし、屋内での遮蔽率は木造家屋の低減係数0.4を採用した。

  11. (空気吸収当量と周辺線量当量との差違)土壌沈着濃度という点線源から計算した地上1mの空気吸収当量率(緊急時換算係数1.0)と、実際に現地でサーベイメータで測定した周辺線量当量率は、周辺線量当量換算係数1.2を超えて大きく異なり、実際の周辺線量当量率は計算された空気吸収当量率の2倍近くなっている。一様に沈着した面的線源から放出される放射線ならびに家屋や樹木に湿性・乾性沈着したものから発せられる放射線により上下左右四方からの放射線を浴びていることを物語り、実際の被ばく線量は土壌沈着量から計算される空間吸収率の2倍近い外部被ばくをしていると考えられる。
     なお、2012年4月~6月にかけて50名の児童による個人線量計ガラスパッジの3ヶ月着用による被ばく線量を観察したが、パッジの吸収線量の実測値は情報提供されず1cm線量当量に換算され、あらかじめ平常時の年0.54μシーベルトの3ヶ月相当を差し引いた追加被ばく線量(実効線量)しか開示されなかった(千代田テクノル)。個人線量計は体幹による遮蔽によって基準構成場の0.7しか補足されないとされ、ICRPの実効線量としても、これをもって実際の被ばく線量とする訳にもいかない。

  12. (調査結果による被ばく線量評価)土壌沈着量から計算した空気吸収率によって計算された外部被ばく線量では、千葉県東葛地区~茨城県南部ホットスポットエリアでは、流山市・松戸市・阿見町・龍ヶ崎市で初年度被ばく(空気吸収線量率)で年間被ばく線量1ミリシーベルトを超える。10年間の累積外部被ばく線量は我孫子市を含む6市町で10ミリシーベルトを超過する。実際にはこの倍の被ばくをしていると推定される。
     ICRPの任意の防護量である実効線量(空気吸収率の0.7)を採用しても平均0.7ミリシーベルト×2で1.4ミリシーベルト以上であり、平常時(年間0.4~0.5ミリシーベルト、時間当たり0.05~0.06マイクロシーベルト)の3倍近い被ばく状況である。

(2)初期吸入被ばく線量評価・・・ヨウ素131吸入による甲状腺等価線量評価
  1. (初期被ばくの圧倒的要因は「吸入被ばく」)「初期被ばく」の圧倒的な要因は、呼吸によるヨウ素131の吸入内部被ばくと考えられる。体内に入ったヨウ素131は身体が安定ヨウ素と区別できないために、海藻類からのヨウ素が欠乏ぎみの場合はヨウ素131の20%が甲状腺に選択的に吸収されるとされる。なお、ヨウ素と同時にセシウムも吸入しており、カリウムと間違えて筋肉を中心に全身に分布し内部被ばくしている。

  2. (経口摂取による内部被ばくは少ない)水の汚染は東葛地区ではヨウ素が検出されたのはわずか3日間、ほうれん草などの葉菜類は3/19にはすでに出荷制限されていた。また水の汚染や食品汚染に対する市民の意識は高く、危険と思われるものを慎重に避けている。汚染された水・食品経由による初期経口摂取による内部被ばくは少ないと考えられる。なお2年後時点での100名超の尿検査では70%の児童の尿からセシウムが検出され、40%が定量され、その濃度は0.2~0.8ベクレル/kgのレベルであった。

  3. (ヨウ素131による内部被ばく)体内に吸入されたヨウ素は、半減期が8日と短いためになだれのように壊変して体内で「機関銃」のように放射線を発し細胞を損傷したと考えられる。ヨウ素131はまずキセノン131にベータ崩壊しこのとき粒子線であるベータ線を放出する。続いてガンマ崩壊して安定キセノンに壊変し、このときベータ線を放出する。粒子であるベータ線の飛程距離はせいぜい2ミリ程度なので吸入したヨウ素131を取り込んだ場所の周辺2ミリの細胞は集中的に損傷を受けることになる。ヨウ素131に限らず、外部から測定できる放射線はガンマ線のみであり、身体の中に入った放射性物質からのベータ線は2ミリ以上は出てこないので測定できない。ガンマ線1ベクレルを測定したときは、必ずガンマ線も1ベクレル放出されている。内部被ばくの身体への影響は二重の意味で荷重である(①局所的に集中して被ばく。②粒子であるベータ線が衝突する)。

  4. (バイオアッセイ)3/20すぎからの常総生協での母乳調査を皮切りに4月にかけて市民による母乳調査が行われた。
     また、事故直後より東海村、つくば市、千葉市、東京都の研究機関でエアーサンプラーによる空気中のヨウ素131濃度の測定が行われていた。
     母乳の調査では高濃度のプルームが通過(3/15、3/21)してから10日から半月も経過した3/30時点で、千葉県柏市の母親の母乳から55.9ベクレル/kg (減衰補正後)のヨウ素131が検出された。(検査日は5日後の4/4で36ベクレル/kg)。4/6には16.1ベクレル/kgとなった。この時の千葉市で測定された空気中ヨウ素131濃度は3/31で2.0ベクレル/?、4/6で0.06ベクレル/?であり、母親が1日22.3?の呼吸によって吸入したと推定されるヨウ素131摂取量はそれぞれ45ベクレル、1ベクレルである。すでにこの時点では水道水からのヨウ素検出はなく、本人は飲用水はペットボトルに切り替えており、またほうれん草などの汚染された葉菜類はすでに出荷制限がかかっており、自家菜園もないことから水や食品からのヨウ素131経口摂取はないと考えられる。
     茨城県守谷市の母親の母乳からは3/22時点で48.8ベクレル/kg、3/31で12.0ベクレル/kg。つくば市で測定された空気中ヨウ素濃度は3/22で9.6ベクレル/?、3/31で0.22ベクレル/?(吸入摂取推定はそれぞれ214、10ベクレル)。つくば市の母親の母乳からは3/23に11.3ベクレル/kg、3/31に9.8ベクレル/kgが検出された(対応するつくば市空気中測定ヨウ素濃度は0.73ベクレル/?と0.22ベクレル/?、吸入摂取量推計は16ベクレルと10ベクレル)。
     母乳への移行率20%(ICRP)から考えても異常な母乳からの検出数値であった。

  5. 日本産婦人科学会は、母乳からの検出を、汚染された水の飲用および汚染された野菜の摂取によるで「あろう」としているが、本人の実際の食調査の事実と相違する。厚労省ならびに日本産婦人科学会等は「吸入被ばく」についてまったく考慮されていない。また、ヨウ素の短い半減期による測定日からの減衰補正さえ考慮していない。

  6. 市民の母乳調査の発表(4/21福島県庁)を受けて、ようやく国は4/25に福島、茨城、千葉、東京の23人の母乳調査を行ったところ、いわき市1件・茨城県5件・千葉市1件の母乳からヨウ素が検出された。この検出ラインはヨウ素131のプルーム通過ラインと重なる(なお、4/25の厚労省検査では茨城県南から東葛地区にかけての母乳の検査はされなかった)。

  7. (母親の吸入量と母乳への排出量の計算指標)摂取量と母乳への移行率は、ICRPでは20%とされているが、日本人の食事からの日常のヨウ素摂取を考慮して10%に補正した

  8. (空気中の濃度から推定される母乳排出量と実際の母乳濃度との差違)エアーサンプラーによる空気中ヨウ素131濃度測定のデータから大人と子どもの呼吸量でヨウ素131の吸入量を計算して母乳への移行量を計算した値と、実際の母乳からの検出濃度を比較したところ、実際の母乳の検出量の方が倍以上大きかった。エアーサンプラーによる空気中の放射性物質の捕集率は50~60%と考えられる。従って吸入量被ばく量は測定値の少なくとも2倍程度と推定される。

  9. さらに、測定地点の空気中濃度よりも母親のいた地点の空気中のヨウ素131濃度が高かった可能性がある。3月23日以降は高濃度のヨウ素131プルームは通過していない。ヨウ素の半減期は8日であるにもかかわらず、4月上旬から4月25日にかけてまで母乳からヨウ素131が検出されるという事はそもそも異常で、相当程度に地表空気中にヨウ素131が滞留していたことを示唆している。関東地方における初期被ばく線量評価においては、ヨウ素131の吸入被ばくが圧倒的な体内被ばく源と判断される。特に、乳児においては本人の呼吸による吸入摂取と母乳からの経口摂取の二重の摂取による内部被ばくが懸念される。

  10. (結論)3/12以降4月下旬に至るまで相当程度のヨウ素131が地上付近に滞留し、それを吸入した事で母乳から検出されたと考えられる。母乳のバイオアッセイと空気中の濃度データから千葉北西部~茨城県南部の2011年3月中のヨウ素吸入量を推定すると、1歳児非母乳児で770ベクレル、母乳児で1,450ベクレル。15歳児以上、大人で6,000ベクレルを超える。これをICRP流に甲状腺等価線量に換算すると、千葉北西部~茨城県南部の甲状腺等価線量は0歳児非母乳児で2.2ミリシーベルト・母乳児で4.0ミリシーベルト、1歳児非母乳児で1.9ミリシーベルト・母乳児で3.6ミリシーベルト、5歳児で3.9ミリシーベルトに達する。

  11. 茨城・千葉での母乳バイオアッセイから推定される甲状腺等価線量と千葉北西~茨城南部と福島市・いわき市との空間線量比(1:31)から、福島県における1歳乳幼児(母乳)の甲状腺等価線量を推定すると、少なくとも100㍉シーベルトを超え、たとえ日本人が食事から日常的にヨウ素摂取していることから甲状腺への吸収率を低く見積もっても、他方で急激に成長する乳児の旺盛なヨウ素の甲状腺吸収率の幅(20~70%)を考えると200~700㍉シーベルトに達する可能性さえある。国連科学委員会(UNSCEAR)による「30km圏内1歳乳児甲状腺等価線量最大82ミリシーベルト」という発表は事実のデータにもとづいておらず、過小評価である。

  12. 福島から関東にかけての住民、子どもたち、とりわけ乳幼児の内部被ばくの主要因であるヨウ素131の「吸入被ばく」を考慮した「初期被ばく線量評価」を行うとともに、土壌沈着量からの日常的な外部被ばく線量による積算追加被ばく線量評価を行った時、福島のみならず広い地域での甲状腺検診、血液検査等の体制を整備し放射線障害の発生に備えた医療保健体制を今から準備することが急務である。